実家の飯に洗舌されている。
「びゃあ゛ぁ゛゛ぁうまひぃ゛ぃぃ」
悲鳴が実家にこだまする…
私は高校卒業後に大学に進学し、その時から現在まで、ずっと一人暮らしを継続している。
高校生までは実家の飯を食べて生きながらえていたわけだが、一人暮らしで飯を作ってくれる人はもちろん家にいない。
当初は自炊も多少していたが、面倒になりコンビニ弁当や外食が多くなっていった。
「セブンイレブン最強」
この言葉を当時の私はよく口にしていた。
そのぐらいセブンイレブンの弁当や麺類、惣菜は私の胃袋を掴んでいた。
セブンイレブンとの幸せな結婚生活が頭に浮かんでくる。
しかし、贅沢なもので流石に毎日のように食べていると飽きてくる。
私はセブンイレブンと距離を置くことにした。
このままでは関係が悪化するに違いない。
お互いのためである。
「ほっともっと最強」
セブンイレブンと距離を置いた私の胃袋の隙を掴んだのは、ほっともっとだった。
のり弁からすき焼き弁当まで幅広いラインナップに私はメロメロになった。
何よりも豚汁が私の冷めてしまった心と体をポカポカにしてくれた。
この子と生きていこう。
すでにセブンイレブンとはお金(セブン銀行)と刺激が欲しい一夜(蒙古タンメン中本)の関係でしかなかったため、私はほっともっととの関係を深めていった。
「年末の帰省は?」
ほっともっとの豚汁とアツアツな毎日を過ごす中、私に1通のメールが届く、実家からだ。
そういえば随分と帰省していない。
私は久しぶりに実家に帰省することにした。
当日、「もっと、もっと」とほっとさせてくる豚汁と弁当のせいでぐっすり眠っていた私は寝坊してしまった。
実家に着いたのは20時ごろ。
「夕飯は?」
母が尋ねてくる。
朝から何も食べていない、腹ペコだ。
「残り物しかないけど。」
夕飯に出たであろう生姜焼きが運ばれてくる。
「いただきます。」
何も考えずに食べた私の舌に電撃が走る。
(う、、うまい、、、うますぎる、、、、)
真っ白になった頭を正気に戻す。
(生姜焼きなんて誰が作っても美味いんだ)
そんなことを考えながら、煮物に手を伸ばす。
「びゃあ゛ぁ゛゛ぁうまひぃ゛ぃぃ」
抗えなかった。私の舌、胃袋はこれを求めていたのだ。セブンイレブンやほっともっととのこれまでの日々が味気ないものに変換されていく。
母の料理の腕が特別いいわけではない。
18年。生まれてから実家を出るまでの18年の歳月が私の味覚を洗脳、いや洗舌していったのだ。
外食で感じるうまさとは全く違う中毒性を帯びたうまさは唯一無二であった。
これを超えるには料理を作ってくれる人と結婚し、18年以上共に過ごすしかないだろう。
実家の飯は私を正気にさせた。
バカなこと言ってないで彼女作れと。
なにが「もっと、もっと」だ。
恥を知れ。